知足です。
 6月2日、板倉建築の専門家・安藤邦廣先生(里山研究所主宰、筑波大学名誉教授)を、阿蘇郡南阿蘇村にある野中元さん宅にご案内しました。安藤先生は柱等の様子を丁寧にみて、補修方法について説明されました。先生のご説明は深いご研究と経験に裏打ちされたものです。強い説得力をもち、誰もが納得する道理にそったものでした。先生は歪んだ建具等を触りながら、「これらが揺れを吸収し、支えてくれたんですね」と、それらを労わっているようにみえました。建物の構造と破損状況を観察し、地震の際に何が起こったかを細かく分析し、対象方法をひとつひとつのケースに応じて大工さんたちに説明されていました。驚いたのは、木造建築には加えられた歪みを少しずつもどそうとする「揺れ戻りの力」がある、という説明でした。木が生き物であることを実感する言葉でした。先生は柱を中心に建築構造から分析され、「この家は、シンプルな補修で大丈夫ですね」と太鼓判を押されていました。野中さんご家族がホッと安心されたことが、何よりうれしいことでした。
 更地にすることを決定していた隣の老夫婦の古民家についても調査され、野中家より被害が深刻なものの、補修できない程度のものではない、と分析されていました。私からみても壊すには惜しい家屋です。安藤先生や野中さんと話しているうち、「本当は先祖から受け継いだ家を壊したくない」とこぼされたご主人の横顔が印象的でした。
 
 野中さんの家を、九州大学の田上健一教授と研究室の学生さん達が実測し、図面を起こしてくださることになりました。本当にありがとうございます。この日、中林之隆さん(大工)、巻京子さん(建築士)、脇大志さん(大工:福島から長崎に避難された)など、多彩な方々が参集され、知識提供や意見交換をすることができました。私自身、大きな学びの機会となりました。何より、ご自宅の再生の過程を公にし、被災地全体のために役立てようとされる野中さんご家族の懐の深さに、心より感謝申し上げます。この日の動きは、6/17の「報道ステーション(テレビ朝日)」という番組で紹介されるそうです。

 安藤先生や田上先生と、被災者の方々の自宅庭先に「板倉の避難小屋」を建てるというプロジェクトを始めようかと話しています。まだ企画案の段階で内容が変更される可能性がありますが、趣旨を以下に添付します。

庭先避難のための「ちいさいおうち(板倉小屋)」プロジェクト企画案

 熊本震災で被災された方々に、心からお見舞い申し上げます。度重なる余震の中、やむなく避難所やテント生活、車中泊をお続けの方も少なからずいらっしゃいます。このような状況をうけて、自宅敷地内に避難のための小屋を建設するプロジェクトを企画いたしました。自宅の敷地内に六畳程度の木造家屋を建て、そこに避難するという方法を提案いたします。

 余震が怖くて自宅で寝ることが不安な方も、庭先の自分の居場所で睡眠をとることができれば、心身が休まります。復興に向けて歩き出すことができます。また庭先避難は、倒壊家屋備品の盗難防止にもなるでしょう。

  東日本大震災の仮設住宅建設で活躍された安藤邦廣先生(筑波大学名誉教授)のご指導のもと、九州大学芸術工学院・田上健一教授の協力を仰ぎながら、熊本震災支援・庭先避難のための「ちいさいおうち(板倉小屋)」プロジェクトを行いたいと考えています。板倉とは日本古来の神社や穀物倉庫に用いられた木造建築技術です。板倉工法は杉の厚板で、屋根、壁、床を構成し、木の香りに包まれた健康的な空間を創り出します。この構造は地震の揺れにも強いと言われています。設備にもよりますが、費用が約150300万程度に収まることも魅力のひとつです。安藤先生は、既に南阿蘇地区の古民家の補修方法に関する指導にあたられています(6/2~)。

 安藤先生が提案されている避難用家屋は、バージニア・リー・リートンがかいた絵本『ちいさいおうち』に登場する家に似ています。熊本震災後、漠然とした建物への不安を感じている子供が多いとききます。できれば「秘密基地」のような感覚で子供たちやボランティアの方々も一緒に板倉小屋づくりをし、安心できる「自分の家」を造り出してもらいたいと願っています。まずは阿蘇地区で庭先避難小屋を建築されたい方を募ることから始めます。ご協力の程、よろしくお願いいたします。

 

                          知足(ともたり)美加子 (彫刻家)

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庭先避難「ちいさいおうち」プロジェクト案