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 10月26日、「黒川復興ガーデンとバイオアートー英彦山修験道と禅に習う」の第1弾として、枡野俊明先生(曹洞宗徳雄山建功寺住職、多摩美術大学教授、庭園デザイナー)の講演会「禅の庭の根本概念」、および復興の庭づくりワークショップを行いました。講演会もワークショップも大変充実した素晴らしいものでした。
 枡野先生は、禅や自然への深い洞察をもって「禅の庭」の創作活動を行い、国内外からの高い評価を得られている方です。私は枡野先生の美しい講演に心打たれ、文字にして感想を書くことができず3日も経過してしまいました。その間、先生のお話を心で反芻しておりました。

*枡野先生のご承諾を得まして、講演内容の文字起こしを報告として公開させていただきました。枡野先生誠にありがとうございました。

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 枡野先生から最初に、仏教用語では「共生」を「ともいき」ということが伝えられました。すべての命が平等に支え合って生きる、あたたかな有様が想像されます。これを先生は「山川草木悉皆成仏(さんせんそうもくしっかいじょうぶつ:自然にはあまねく仏の心が宿っている)」と表現されました。欲には際限がなく、いつまでも人を貧しくする(例えば坐禅について、なりきって坐すのではなく、目的のために坐すのは「欲」なのだと)。豊かさは心に感じることでしか得らえないこと。そして、本来の美しい心(自己)に出会うとき感じられる、と伝えられました。
 西洋と日本における文化思想について、建築等の事例をあげてご説明されました。根本的な違いは、人間と自然の関係にあります。西洋建築は「壁」を積み上げ、人間を天に近づける構造をもつこと。自然物は、庭においても人工物を引き立て従属するものです。
 一方、日本建築は木による「軸組」で殆ど壁がなく、内にいても外と一体となるような空間を構成します。人間も自然の一部であること、自然を身近に感じることが尊いとされているのです。
 さらに、フラワーアレンジメントと生け花、西洋の磁器と日本の茶碗の違いを例にして、禅的な美とは何かについてお話されました。●完全なる美の先にある不完全性。そこに人間の力を超えたものがある ●引き立てあう。相手がよくなることで自分がよくなるという価値観 ●制作中は作品が「自分自身」になったとき自然と手が離れる ●対象そのものの命に、自分の命をのせることが創造 ●以心伝心 すべてを説明せず、みるものの力量を問う ●美とは本来の自己にであうこと

 禅では「不立文字、教外別伝」といって、本質的なことは言葉で伝えることができないとされています。難しいご講義だったと思うのですが、枡野先生は作家としての視点で、豊富な画像をもとに丁寧にご説明くださいました。「何を美しいとするのか」という禅の庭の美について以下のキーワードを中心にお話されました。 ●無常 ●不完全、不均整 ●脱俗 ●自然(じねん)幽玄 簡素 ●静寂 ●枯高  
 先生は「幽玄」の概念を「能」を通してご説明されました。「能」とは静止して限りない含蓄を秘め「遠見」することが大切で、みるものの想像力を問う、というお話が印象的でした。また「自然:じねん」について、企まず、あるべき姿、本性、命をそのままに活かすこととありました。これは作為を無作為に感じさせるという、かなり難易度が高いことです。しかし良いものが心にスッと入るのは、この「じねん」があるからだと改めて気づきました。
 
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 枡野先生は「石心(いしごころ)を読む」というお言葉を使い、石をよく観察し、対話することの大切さを説かれました。禅の庭には、滝に見立てた岩(三級浪)の前に鯉魚石を置くことが多いそうです。「三級(さんきゅう)浪(なみ)高くして魚(うお)龍と化す」→(龍門三段の滝を上り切った魚は龍になる)という中国の逸話を禅が取り入れているとのこと。たゆまず精進する「道」を、物言わぬ石で示唆していたのですね。

 実は講演会の前日に、英彦山の雪舟庭園(1479年)を枡野先生にみていただきました。先生は目の前の雪舟と時を超えてお話されているかのように、次々と読み解かれるのでした。「客人が庭をみる視点はここなので、坊はこのあたりにあったはずですよ」と言われ、探すと旧亀石坊の礎石が本当に残っていて驚きました。(雪舟庭園の龍門について、先生は近年の工事で水を流さなくなったことを惜しまれていました。遠山の下には盛土があったこと、雪舟独特の縦のラインが美しい岩があることなど、ご教示いただきました)


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 とても素晴らしいご講演でした。心から感謝申し上げます。参加者の方々も、先生への感謝の言葉をつづろうとすると、言葉が足らないと言われていました。自然と心、そして美について、実践者としての真実の響きのある言魂が、聴衆に深く届いていました。本当にありがとうございました。
 講演後、地元の美味しい食材を使ったお料理がふるまわれました(尾藤さん、八尋さん、時津さん、スタッフの方々、本当にありがとうございます)。
 先生は参加者の方が持参した本に、一人ひとり違った言葉を記されていたそうです。講演後、枡野先生から復興支援に関するアイディアを幾つか賜りました。ひとつは祈りとアート」をテーマにして、流木を利用して木のお守りやお箸づくりを町で行うこと(既に難を受けたお守りや箸は、持つ人の身代わりのお守り、お箸として難除け、招福開運のお守り、箸として町ぐるみ地域ぐるみで復興に繋げていったらよい)。もうひとつは「身代わり観音様」を作ることです(・先ずは尊い命を落とされた方々のご供養のため。・そして命が助かった人々の今後を守っていくため。・更には難を逃れた方々の身体健全、心願成就、招福開運のため)。御法事や大学業務、執筆等でお忙しい中でも、他者のことを第一に思いやる先生の御心の大きさを感じました。

 翌日も建功寺の御法事が入っていることから、ワークショップは朝倉市の円清寺住職の渕上良仙先生が引き継がれご指導してくださいました。

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 まず、4つのグループに分かれ、共星の里の野外スペースにある35個の岩と、植生、太陽の向き、方角、空気の流れなどを観察します。その後コンセプトを話し合い、模造紙を箱庭として見取り図を描きます。各グループには、被災された方々がおり、当時の様子や気持ちを語ってくださっていました。また参加者の皆さんは優れたポテンシャルの持ち主ばかりで、地に足のついたよいアイディアが次々と育まれました。

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「東側の森(マザーツリー)に関連する樹木を植える。
子供達が遊べる空間をつくる」

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「自然(じねん)をテーマに、岩を盛土でおさめ、地形に起伏を与える」


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「東側に光を象徴するオブジェを設置する。
災害時の水の流れを、暮らしと共にある川にみたてて再現、活用する。
35個の石に、黒川で生きる方々を象徴するものを刻むor描く」


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「被災された方々への祈りをテーマにする。
一か所だけ不完全、不安定な岩を残し、今後の防災意識を喚起する」


 様々なユニークなアイディアが創造されていました。すべてのグループが、上流で被災された方々への鎮魂と祈りを根底に据えられていました。各グループでプレゼンを行い、渕上先生からコメントをいただきました。渕上先生のお言葉の一つひとつに、地域の命を尊ぶ思いがこめられていて、胸が熱くなりました。
 最後に、各参加者が全体の感想を話されました。もらい泣きしそうなコメントもあり、深く考えさせられました。本気で地域のため他者のために何かを創ろうとするとき、それも共同で愛をもって創造するとき、人と自然は深くつながれるような気がしました。参加者の皆さん、ご参加くださり、誠にありがとうございました。引き続き、地域の方々と関わりながら、来年の作庭実施に向けて動きたいと思います

 渕上先生は、今回の講師を無償で引き受けてくださっただけでなく、ワークショップ後、隣の宮園地区の「もどり地蔵(今回の災害で流された木彫がもどって祀られている)」にも読経してくださいました。先生の地域への愛は本物だと思いました。心より感謝いたします。本当にありがとうございました。


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 SALの白水さん、資料制作から運営まで尽力してくださり感謝しております。中村美亜先生、村谷さん、真摯にサポートしてくださりありがとうございます。




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「アートの力で復興支援」と題して、黒川ガーデンプロジェクトを含め、災害被災木の再利用を通じた復興支援について、合田さん(毎日新聞)が記事にまとめてくださいました。ありがとうございました。→10.22新聞記事PDF。朝日新聞の渡辺さん、西日本新聞の北川さんも取材ありがとうございました。


* このプロジェクトのプレ企画として、7月1日に被災地をまわる研修を行いました。以下の映像に被災者の方々の語りや参加者のようすなどをまとめています。(→映像8分)