知足です。

 福岡県朝倉市、東峰村、添田町をつなぐ(2017年九州北部豪雨災害被災地)流域文化復興支援サイト 「Mill(ミル)」の制作に取り組んでいます。この3つの地域は被災地であると同時に、英彦山と筑後川を結ぶ「水」の恵みと「流域」の文化を共有しています。タイトルには英語の「水車小屋」という意味と、日本語の「みる」という響きを重ねています。水の恵みが、粒子のようにあまねく流域に広がること。よくみて、関心をもってもらうことを願い、九州大学芸術工学部(知足研究室)が中心となって制作しています。   三流域の現地取材を、6/29と7/10に行いました(地域の方々が案内)。その中で、 寛政元年(1789)から稼働し続けている「三連水車」も見学しました。
→制作したホームページ「MILL(ミル)」を12月に
公開しました。ぜひアクセスしてください。

三連水車は国指定史跡の重要な文化財です。約230年間も本来の農業用途のために動いてきた「日本最古の水車」なのです。素晴らしいリビングヘリテージ(生きる文化財)として、地域内外の精神面を鼓舞してきたといえるでしょう。(三連水車の存続の危機については、このページの後半で説明しています)


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「三連水車」
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 故・中村哲氏は三連水車や山田堰(ぜき)の灌漑システムに学び、アフガニスタンに貢献したとのことです(→産経新聞記事

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「山田堰」

 この三連水車がいま、存続の危機に陥っています。以下の10/5朝日新聞記事をお読みください(執筆者の渡辺記者は上記の見学会にも同行)。
 
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「日本最古級の現役水車ピンチ 農家の維持費増 大工の技術継承問題も」
朝日新聞 10月5日 渡辺純子記者
https://www.asahi.com/articles/ASQB461RJQ9GTIPE00V.html


日本最古級の現役水車「三連水車」の存続が危うくなっている。福岡県朝倉市の観光シンボルだが、管理しているのは農家たちで、負担が膨らんでいるからだ。独自の技をもつ水車大工の後継者もいない。もう電気ポンプにするしかないか――。そんな声が出ている。

 川に並ぶ三つの水車が勢いよく回り、水をくんでは樋(とい)にざあざあ注ぐ。川より高い田に水の力だけで水を送る、江戸時代にできた水車だ。近くの二連水車ふたつと合わせて国史跡に指定されている。「疎水百選」や「世界かんがい施設遺産」にも選ばれ、市の観光パンフの表紙を飾る。次々と人が訪れては写真を撮っていく。

 その横で山田堰土地改良区の古賀敏雄理事長(70)がつぶやいた。「古き良きものをなくしたくないけど、農家の負担が重すぎる」

 水車の所有者は周辺の農家約1千戸でつくる改良区だ。農家から集めた賦課金で水車を回している

 補修や組み立てにかかる経費は年150万円ほど。行政の支援は年50万円の市文化財補助金のみ。木の水車はすり減るため5年ごとに造り替え、二連と合わせて1千万円近くかかる。農林水産省などの補助はあるが、3割は改良区がもつ。

 こうした経費が年々膨らんでいる。部材となるスギやアカマツ、カシはかつて地元で入手できたが、今は県外まで行かないと良いものを調達できない。人材難で人件費も高騰している。ウッドショックも重なり、2年後の更新時の見積額は1500万円ほど。3割で450万円の負担となる。

 壊れた時の修理なら文化庁の補助が出るが、5年ごとの更新は「日常的な維持管理」とされ、対象にならない

 一帯は穀倉地帯で、米価が高いころは農家も裕福だった。だが米価は年々下がり、農家は高齢化した。農家の経営は厳しく、賦課金を値上げできる状況ではない。電気ポンプにすれば経費は半分以下になると試算されている。これまでも電気ポンプにする話は出たが、「朝倉のシンボルをつぶすわけにいかない」と踏ん張ってきた。

 知恵も絞ってきた。8年前には改良区がJAなどと保存会を作って募金を始めた。だが広がりはいまいちで、収入は年数十万円。見学料や、商品への画像使用料をもらうことも考えてはみるが、人手がかかり、踏み切れない。「三連水車」の商標登録は業者に先を越されていた。前々回の更新時は古い部材を園芸用品にして売るアイデアをひねり出した。しかし手間の割に収入は少なく、前回の更新分は廃棄した。打開策がないまま、次の更新が迫る。

 2017年の九州北部豪雨では流木やゴミがからまったが、水車自体はほとんど壊れなかった。改良区役員らが総出で取り除いて約1カ月で復旧させ、「復興のシンボル」と言われた。山田堰を参考にアフガニスタンを緑化した故中村哲氏は、三連水車をモデルに鉄の水車を現地に造った。

 知名度が上がって観光客が増えても、農家や改良区の収入は増えない。むしろ冬場に来た観光客に「なんで回ってないのか」と責められることもあるという。

 朝倉市商工観光課は「水車は観光の目玉だが、困っている伝統産業や文化は他にもある。観光客にお金を落としてもらう仕組みを地元に考えてもらいたい」という。

 古賀理事長は「水車は農業施設だと理解されていない。観光資源の要素が強いのなら、農家の負担を軽くしてほしい」と訴える。

 さらに切実なのが、水車を造り、日々手入れをする技術の継承問題だ。後継者探しは、地元でただ一人の水車大工の妹川幸二さん65)に頼っているのが現状。部材を竹で組み立てる独自の技は、熟練の大工がさらに修業してやっと身につく。「だれでもできる仕事じゃねえ。でも水車じゃ食っていけん」。加工された部材を組み立てる工法が増えたせいか、熟練の大工が減り、候補を探すのも大変という。妹川さん自身も体調が思わしくない。(渡辺純子)

識者「農家以外の受益者意識高めて」

 大分県豊後大野市の農業用水路「緒方井路」にも水車があるが、合併前の緒方町が平成になってから復活させたものだという。経年劣化した1基を昨年造り替えた際は、費用約250万円を市が全額負担した。担当者は「観光名所だから」と話す。

 熊本県山都町の国重要文化財、通潤(つうじゅん)橋も地元の土地改良区が管理しているが、所有者は町だ。地震や豪雨で壊れた際の復旧工事に約28千万円かかったが、国が85%、町が15%を負担した。石製なので水車のような更新はなく、改良区によると日々の管理も難しくないという。

 木製閘門(こうもん)のある、さいたま市の国史跡「見沼通船堀」は改良区などが所有するが、管理は市。2021年度から3億円以上かけて改修中だが、現在は農業用水を使っていないこともあり、改良区の負担はない。

 水車に詳しい農研機構の広瀬裕一上級研究員は「朝倉の三連水車は日本の代表的な水車。たしかに直接の受益者は農家だが、商工業者や観光客も間接的に利益を得ている。行政の支援に加えて、農家ではない人たちの受益者意識を高め、水車の保存に生かす仕組みが必要ではないか」と話す。




*山田堰から堀川用水、三連水車へと向かう
水の動きを30秒の映像にまとめています。